the buddy

Atsuto Uchida × Hiroshi Kiyotake

内田篤人と清武弘嗣がクロストークでオン・オフを語る

PHOTOGRAPHY by NAOTO KOBAYASHI|INTERVIEW by TOMOKO HATANO

the buddy|Atsuto Uchida × Hiroshi Kiyotake

日本代表として親交を深め、今では同じブンデスリーガで戦う、シャルケ04の内田篤人とハノーファー96の清武弘嗣。このオフはともにリハビリに励んだという仲のいいふたりが、渡独前に東京都内のスタジオにて対談。サッカーについて、プライベートについて、次々と話が広がる、リラックスした対談となった。

「やっと世界が、現実が見えてきた。戦術を理解してチームとして戦える意識が、日本人の強み」内田篤人
体も頭も心も疲れ切って”無”になってしまう状態を経験して、今はすごく楽しめている」清武弘嗣

―まずは二人の持つスパイクへのこだわりを教えてください。

内田サイドバックというポジションは一対一が多くて、自分というより、相手の動き出しに合わせないといけないんです。急に止まったり滑ったり、アクシデントも多い。だからスパイクの裏側が、芝生をグッと噛んでくれることが一番大事ですね。あとは軽さかな。

清武僕はトップ下でプレーする事が多いので、ボールタッチにはすごく気を使います。トラップ、シュート、もちろんフリーキックも蹴りますし。そういう点で、スパイクの素材にはこだわりを持っています。

―新スパイク「ACE」の感触はいかがですか?

内田ACEは、ポイントが43個もあるんですよね。ポイントが多いほど踏ん張りやすいし、体重が分散されるので、足への負担がすごく軽くなってくると思います。

清武僕は、とてもトラップがしやすいと感じました。

内田こういう素材(コントロールウェブ)って、カーブとかも付けやすいんじゃない?

清武それもあるかも。ボールの滑りにくさは、僕にとってはすごく大事なので。雨でスリッピーな状態でも、ピタッとボールを止めてくれる素材ですよね。

内田あと、ソール一体型のヒールもいいですね。グラウンドの状態が悪かったりすると、着地の瞬間にスパイクの中で足がずれやすいんです。ACEみたいな一体型はホールド力があるから、足首ごとアキレス腱を守ってくれると思う。

―プライベートについて伺います。日本とドイツ、オフはそれぞれ何をして過ごしていますか?

清武日本に帰った時は、だいたい実家の大分でのんびりしてるかな。日本でもドイツでも、基本は家族一緒に過ごします。ハノーファーでは、チームメイトの酒井宏樹と家が近所なので、互いの家を行き来したり、近所の動物園に遊びに行ったり、家族ぐるみで仲良くしています。

内田日本ではメディアなどの仕事が入ることも多いので、ホテルを転々としていますね。ドイツでは、ほとんど家にいます。練習から疲れて帰ってきたら、外に出る気がしないから。自分が食べたいときに食べて、寝たいときに寝て……。でもたまに清武とか日本人選手10人くらいで集まって、デュッセルドルフへ日本食を食べに行くこともあります。

―ドイツのサッカーカルチャーは日本とどう違います?

内田ダービーでは特に、なんですが、チームが勝つか負けるかで街の雰囲気がガラッと変わっちゃう。勝てばご飯を食べに行っても『食事代はいらないよ』って言ってくれるけど、負けると文句を言われたり。すごくハッキリしてるよね。

清武ダービーがすごく盛り上がるっていうのは、ドイツではどこも一緒。僕が移籍する前にハノーファーはダービーに負けていて、サポーターグループが応援を放棄していたんです。僕はそれを知らなかったから、ハノーファーのスタジアムって意外と静かだと思っていた。でも昨シーズンの最後、チームとサポーターが和解して戻ってきたら、そこからもう……、すごかった。スタジアムの雰囲気がガラッと変わって、これぞブンデスリーガ!って感じでした。

内田やっぱりサポーターが、日本とは全然違うよね。立ち上がって審判に中指立てちゃうような文化だから(笑)。プレーひとつひとつに反応があるんですよ。例えば“ファウルして相手を倒して止める”っていうプレーに対しても、日本に比べるとすごく高く評価してくれる。だからやっていてすごく楽しいし、頑張れる。

―世界を相手に戦う二人にとって、日本でのプレー経験は生かされていますか?

内田鹿島アントラーズでプレーしていた頃は、どちらかというと“勝って当たり前”だった。でも、ドイツではそうはいかない。チャンピオンズリーグで勝てない時や、苦しい状況下でも頑張らないといけない。そういう中で、アントラーズ時代の“常に勝ちを意識してプレーする”というメンタリティは、今も自分の助けになってくれているかな。

清武う~ん。僕はJリーグでは楽しくプレーをしていたんですよね。正直、今ほどの苦しさを味わったことがなかったから……。

内田ドイツって、追い込まれ方が全然違うもんな。

清武そう。二部に降格したニュルンベルクでも、昨シーズン降格争いをしたハノーファーでも、苦しいことがすごく多くて。でもようやく最近、その状況を楽しめるようになってきた自分がいる。

内田充実しているんだね。

清武体だけじゃなくて、頭も心も全部疲れ切って“無”の状態になるような試合が続いたんです。プロ生活7年目にして、初めての経験でした。だから今は自分でも、すごく楽しめている、と感じています。

―充実感と苦しさは表裏一体ですか?

内田それは絶対にありますね。清武のチームも同じだと思いますが、ある程度経営がしっかりしていれば、いい選手をどんどん補強できるんです。そういう状況下で自分のポジションが安泰っていう事はありえない。一試合でも気を抜いたプレーをすれば、次からベンチ外っていうのはザラですし。色んな国の代表選手が集まって、全員が“自分は試合に出られて当然だ”という気持ちで練習に臨んでいるわけですから。そんなシビアな状況の中で、いかに日々を積み重ねるか、という事ですよね。

清武そうですね。前半戦すごく充実していたと思ったら、後半戦でドン底に落とされるなんてこともある。1年間ずっといい調子でプレーできればいいけど、そういう訳にもいかないし。でもそこでどう踏ん張れるかが、自分を成長させてくれるポイントかも知れない。

―日本人選手として、世界で通用する要素はどこにあると感じます?

内田う~ん。パワーでは勝てないし、技術ではスペイン人やブラジル人のほうがあるし。どこなのかなあ?

清武僕もドイツに行く前までは、技術では絶対負けないと自信を持っていたんだけど……。行ってみたら違うなあ、って。

内田うまいもんな、あいつら(笑)。日本は技術で勝つしかないと言われてきたけど、いやいやいやいや。“俺らなんかよりうまいやつ、たくさんいるぜ!?”と思ったもん。やっと世界が、現実が見えてきたっていうか、ね。

清武自分が思う日本人の武器は、頭が柔らかいところかな。戦術理解の部分。

内田ああ、たしかに。国によっては、一点、二点取られた時点で諦めてしまう選手も多いからね。信じられないような自分勝手なプレーが出てきたりして。日本人は、一度決めたことは最後までちゃんと守ろう、っていう崩れない部分があるね。

清武素直だし。

内田意識をしているから、“チーム競技”っていうものを。結局、チームとして戦わなければ勝てないと思うので。そういう意識は強いよね。

―幼い頃に思い描いた「将来の自分」がおふたりともあると思いますが、どこまで叶えられていますか?

清武僕は小学校の卒業文集に“Jリーグに入って、日本代表に選ばれて、ワールドカップに出る”って書いていたので、叶ってはいるんですよ。でも、まだしっくりきてないっていうか……。どっちかというと、これからの自分が、未来が、もっと楽しみですね。

内田僕も卒業文集に書きましたよ。当時キングカズに憧れていたので、“サッカー選手になってヴェルディに入る”って。結局ヴェルディには入っていませんし、キングカズみたいにもなれていませんけどね(笑)。昔イメージしていた姿とは違っても、サッカー選手になってドイツでプレーできている事については、満足……、いや、満足ではないですね。どこまでいっても、僕は満足しないと思います(笑)。